「2017年8月21日(マドラス)」 の各項目の詳細ページ
- 2017年8月21日 アメリカ合衆国オレゴン州マドラスで見た初めての皆既日食
- マドラスでの感動の皆既日食2分間を終えて
- 皆既日食ツアー参加決断の決定打
- ツアーのコース選択と申し込み
- 皆既日食ツアー参加権獲得のために不可欠な練習
- 日食遠征出発までに必要な準備
- 海外旅行出発前の短期間の英語学習
- 自分でできるESTAの簡単な申請方法
- 誰でもできて失敗しない本格的な日食写真撮影条件の追求
- 固定撮影でコロナの撮影に成功する秘訣
- 皆既日食撮影のためのNDフィルターの外し方にひと工夫
- 部屋を暗くして行った予行練習で得られた気づきとアイデア
- 皆既日食観測遠征旅行のためのパッキング
- アメリカへ向けて出発
- 入国審査と再度のセキュリティチェック後ポートランドへ
- 皆既日食の観測地マドラスへ
- 観測・撮影機器のセッティング
- シャドーバンド観察のための工夫とアイデア
- 部分食が進む中で多発するトラブルと問題点
- 第2接触へのカウントダウン
- マドラスの輝き☆感動の瞬間よ永遠に!
- 初めて皆既日食を見て
部分食が進む中で多発するトラブルと問題点
「まもなく第1接触です.5,4,3,2,1.欠け始めました.」
例のアナウンスとともにみんないっせいに日食グラスを手にとり,太陽にくぎ付けになりました.1時間13分後には皆既食となる天空のドラマがスタートした瞬間でした.

日食グラスで太陽を観察する観測者たち
私たちのこのような行動とは対照的に,太陽や周りの景色に関しては,この瞬間はいたって静かです.第1接触後しばらくは,太陽の表面にもこれといった変化は見られません.1~2分もすると,太陽がわずかに欠けたのが見られますが,周囲の風景の変化はありません.
初心者の場合は,第1接触から第2接触までの部分食の撮影は,撮影そのものよりも何か不具合はないかをチェックして対処し,設定の微調整や補正を行うための時間と割り切ったほうがいいでしょう.なぜなら,部分食の撮影は第3接触の後で,いくらでもできるからです.
最初の問題発覚は,9時25分頃.カメラレンズのキャップを外し,撮影モードにしてもスクリーンには何も写っていないのです.ファインダーをのぞいても太陽が見えない.動いてしまったのです.三脚に足をひっかけたりした気配もないのに.9時23分に画角調整をして,太陽を有効画面下縁に接しながらも有効画面左端から10%の位置に来るように設定したので,9時30分に太陽が画面の中央に来るはず.それなのに画面に入っていないということは,9時30分の画角調整は断念しなければなりません.
それ以上に重要なのは,トラブルの原因を突き止めなければなりません.三脚の固定は問題ないようです.カメラを垂直と水平に動かす部分の固定も問題ないようです.よくよく調べると,三脚に雲台を固定するネジが緩んでいました.出発前にしっかりと締めておいたはずですが,おそらく日本からの運搬中に緩んだのでしょう.このような点もチェックリストに入れておくべきでした.
2回目の問題発覚は,9時55分.スケジュール通りの撮影を始めたのですが,カメラのスクリーンには何も写っていません.またどこかネジが緩んでカメラが動いてしまったのでしょうか.今回は,カメラの水平・垂直方向のネジも雲台の固定も問題なさそうです.三脚も動いた気配はありません.ふと,レンズのほうを見てみると,レンズのキャップを外すのを忘れていました.第2接触前にはNDフィルターを外し忘れないようにしなければなりません.
3回目の問題はその直後に発生.ピントがずれてきているのです.ここまでは想定内で予行練習済み.そこでピント調整を行おうとするのですが...ピントのズレが想定していた程度を大きく上回っていたのです.日食写真はこれまで部分日食なら何度も撮ったことがありましたし,2012年5月21日には金環日食の写真も撮りましたが,ここまで大きくピントがずれたことはなかったです.結局,マジックテープの貼り直しを余儀なくされてしまいました.レンズのキャップを外したりはめたりすることでピントが動いたことも想定して,マジックテープの幅も太めにして,ていねいに貼り直しました.これらのトラブルの対処のための,一連の作業に伴う時間のロスがたたって,9時55分に太陽が画面の中央に来るかどうかのチェックができなくなってしまいました.残るは10時10分のチェックに賭けることにしました.
10時10分に太陽が画面の中央に来るようにするためには,10時03分07秒に有効画面の左下から3.5%の位置で太陽の下縁が有効画面の下縁と接するように調整しなければなりません.今回はもう失敗は許されません.なぜなら,10時10分の結果から皆既中に太陽が画面の中央に来るようにするために,10時13分37秒にどのように設定するかが決まってしまうからです.
いよいよ,10時03分07秒.計算通り,有効画面の左下から3.5%の位置に太陽を合わせました.そして,10時10分00秒.太陽は画面の中央よりやや左下にずれています.次の画角調整は10時13分37秒,皆既の6分前です.ここで補正をするかどうか,非常に判断に迷うところです.皆既に向けて次第に日差しがやわらかくなるなど,これから徐々に変化が加速しようとしている中,ここで設定変更に時間を取って,もし新たなトラブルが起こった場合のことも考えます.皆既が迫る時にこれ以上,トラブルが連続すると冷静に対処はできない可能性があると判断し,今回は設定変更は行わないことにしました.画面中央に太陽が来ることよりも,このままの確実に皆既中に太陽が画面内に収まることを優先したのです.
このあたりから木漏れ日がおもしろいです.写真撮影のために三脚に設置したカメラなどの機器の複雑な形からできたピンホールが作った木漏れ日にも欠けた太陽が映っていました.写真はその木漏れ日を手持ちのスマホで撮影したのものです.スマホのカメラも意外と重宝します.

こんなところにも木漏れ日が!
このような木漏れ日を見ると,トラブルや問題点の連発でヒヤヒヤモードだった緊張がほぐれて,癒されます.せっかくだから,ピンホールで「2017.8.21.マドラス」などと書いたボードでも準備しておけば面白い写真がとれたかもしれませんね.
最後の画角調整開始の10時11分00秒になりました.今まで無風だった観測地にかすかに風が感じられるようになってきました.このまま皆既の瞬間まで風が強くなっていくのでしょうか.風で三脚が動いてしまうかもしれない.こんな不安が頭をよぎります.しかし,皆既中の黒い太陽の撮影のためにはこの段階では必要以上の感情移入は禁物.淡々と決められたスケジュールを実行しなければなりません.太陽を有効画面の左下に合わせるように,調整開始.この調整は10時13分37秒に終える予定ですが,太陽が画面の中央よりもやや左下にずれる傾向があるので,15秒以内という条件で,早く画角調整が終わってもOKとすることにしました.このあたりの臨機応変さは大切だと思います.
画角調整は10時13分37秒の10秒ほど前に終了しました.だんだんと,弱くではありますがはっきりと風が感じられるようになりました.徐々に気温の低下が感じられる中,あくまで結果論ですが,部分食中の相次ぐトラブルのため,ルールを緩和したのはよかったかもしれません.これから皆既に向けてさまざまな変化がどんどんと加速していくというこの段階で,1秒以内の精度で画角調整を行うのはやはり酷です.ここが練習の時と本番の時との大きな違いで,練習では1秒以内の精度を目指しながらも,本番で10秒程度の誤差でOKと緩和したのは正解でした.気分的にすごく余裕が生まれます.