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2020南米等

2020年12月14日に,南米チリ,アルゼンチンとその周辺海域で皆既日食が見られます.前回の皆既日食からわずか1年半で再び皆既日食が見られるという幸運に恵まれたチリ,アルゼンチンですが,皆既帯が通過する場所は前回より南側になり,自然環境はかなり異なります.とはいえ,当日は現地では夏に相当するわけですから,比較的しのぎやすい気候の下,晴れれば前回とは一味違った皆既日食が観察できることになります.

皆既日食が始まるのは南太平洋上で,前回と比較すれば見劣りしますが今回も,海域は異なりますが海流・風とも比較的弱い場所を皆既帯が通過します.この領域での船上観測(洋上観測)や日食フライトの募集に期待したいところでしたが,現在の状況ではおそらく無理でしょう.

正午前になって皆既帯は南米大陸に上陸し,空港があるピトルフケン,バルチェタ,サンアントニオ・オエステなどの都市を通過していきます.限界線上にもテムコ,ビエドマなどの都市があり,平時ならば宿泊施設さえ確保できれば観測候補地となります.もっとも,可能ならば限界線上で観測するよりも,それらの空港を起点として中心線上に位置するビジャリカ,プコンやサンマチュアス湾の北岸へ移動して観測したくなります.

チリの山岳地帯での注目箇所は,個人旅行では空港があるピトルフケン,ツアーでは観光地のピジャリカ,プコンが注目されたことでしょう.これらの地域での宿泊施設の確保が難しい場合は,北限界線上に空港があるテムコ近郊を検討することも可能でした.前年の皆既日食とは気候も太陽の高度も異なるため,皆既前後でどのような光景が見られるのか,興味がわくところです.

アルゼンチンに入った皆既帯は山岳地帯のはずれでフニン・デロス・アンデスに近いピロリルなどの小さな町を通ります.平時では,ツアーでは候補地に挙がるでしょうが,なんらかの移動手段と宿泊施設が確保できない限り,個人旅行では難しいかもしれないというところになります.各地方の町並みなどの景観と日食とのマッチングに期待したいところです.

山岳地帯を抜けると,パタゴニアと呼ばれる寒冷砂漠の北部をかすめるように東進し,バルチェタなどの小都市を通り,東海岸のサン・マチュアス湾に至ります.その間,幹線道路に沿って小さな町が点在していますから,観測候補地が見つかるかもしれません.サン・マチュアス湾岸にも,サン・アントニオ・オエステ,ビエドマが皆既帯に入っています.

南大西洋に抜けた皆既帯は北東進し,アフリカのナミビア沖で日没を迎える直前に,再び,海流や風が弱い海域を通過します.通常ですと,この付近も船上観測(洋上観測)や日食フライトの候補地になるのかもしれません.

今回の皆既日食は陸地を通過する部分は少ないですが,その前後の海域を含めれば,2019年の皆既日食以上に自然環境の異なる場所を通過していきますから,同じ日食でありながら異なった光景を見せてくれそうです.いつもとは少し違った条件での観測テーマに挑戦してみるのもいいかもしれません.

繰り返しになりますが,せっかくの多様な自然環境で見られるはずの皆既日食を,いつものように遠征して楽しむことができないのは残念なことです.しかし,現地の方々も,特に皆既日食観察の準備から充分な感染対策を施すなど,安全性には充分に配慮し,くれぐれも無理がないように観測していただきたいと思います.