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シャドーバンド観察のための工夫とアイデア

話は前後しまずが,三脚の準備が終わったら,今度はシャドーバンド観察システムの準備です.皆既日食のときに,第2接触の前と第3接触の後の数分間,晴れた日のプールの底に見られるような,ゆらゆらとした淡い影が動いていくのが観察されることがあり,シャドーバンドと言われています.シャドーバンドは白く平らな表面があると,見えやすいそうです.いつつかの方法がありますが,今回は身近なものを活用した3つの方法を採用しました.わずかな工夫とアイデアで意外に簡単に設置できるものです.

まず,私たちが決めた観測地点の地面そのものがコンクリートなので,大きなスクリーンの役割を果たします.これは家内のアイデアです.それ以外に,もっと微妙な変化も観察できるように2つの観察システムを用意しました.

一つ目の工夫は,写真のような下敷きに白いコピー用紙を挟んだ簡単なものです.この写真は後に手前の植物の影の変化も観察できるように,植物の後ろに設置し直したところをスマホのカメラで撮ったものです.

シャドーバンド観察用の下敷きにコピー用紙を挟んだものですが,これでも立派なシャドーバンド観察システムとして機能するのではないかと考えました.
シャドーバンド観察用の下敷きとコピー用紙

上記の方法でもよいのですが,どうしても後ろを振り向かなくてはならなくなります.シャドーバンドが観察される時刻には,太陽が細くなり,NDフィルターをはずす作業があり,しかも,第2接触直前のダイヤモンドリングの瞬間を,今か今かと待ち構えている瞬間でもあります.そのような貴重な時間に後ろを振り向くなどの動作だけでもしたくはありません.そこで,もう一工夫して,アマゾンなどの宅配便で届いた段ボール箱を展開して持参し,現地で組み立て,その上に白いコピー用紙を置くことにしました.これなら視線を手元に落とすだけで観察できます.

段ボール箱の組み立てにはマジックテープが便利です.ガムテープだと必要以上にベトベトしますし,セロテープだとキラキラ光って後の観測の時に集中力が維持できません.

シャドーバンド観察用のコピー用紙をダンボール箱の台に貼り合わせて足元におくことを考えました.シャドーバンドが発生すれば視線を手元に落とすだけで観察できるはずです.
シャドーバンド観察用の台に使うダンボール箱の組み立て作業

ちなみに,このアイデアは,2012年5月21日の金環日食の観察中に気づいたものです.

周りを見渡すと,他の人もせっせと機器のセッティングをされていました.渋滞に巻き込まれないように早朝に出発して,時間に余裕を持って観測地に到着できるようにスケジュールを組んでくださった阪急交通社の方々には本当に感謝です.今回のように第1接触前に観測機器や撮影機器のセッティングが完了でき,あとは日食の始まるのを待つのみとなるぐらいの余裕を持ったほうが本命の皆既日食を何倍も楽しめます.

他の人も機器設置が終了し,日食の開始時刻待ち.2017年8月21日8時30分アメリカ合衆国オレゴン州マドラスのマドラス高校のサッカーグランド(阪急交通社のアメリカ皆既日食ツアー観測地)にて
日食の開始を待つ人々

一通りの機器の設定を完了し,スケジュールの確認後,しばしの休憩として,ポートランドのホテルで受け取った朝食をいただくことにしました.時計係なのでしょうか?「ただいま第1接触30分前です」,「あと約30分で第1接触となります」と,メガホンで案内してまわっておられました.ああ,今8時36分なのだな,とわかるのでこの案内はとてもありがたいです.日食の時に第2接触へのカウントダウンタイマーをセットするかどうか迷ったのですが,このような放送があるとのことなので,カウントダウンタイマーのセットは,今回は行わないで済ませることができました.

設置が完了した撮影システムの写真.この写真は第1接触後に太陽の方向から撮影システムをスマホのカメラで撮った写真.
前から見た撮影システムの全景

お隣の方もセッティングをほぼ完了されたようで,
「よーし.じゃ,○○さんとこへ,ちょっとからかいに行ってくる.」
などと冗談を言っておられました.たぶん,○○さんとセッティングの状況を再確認し,これから訪れるであろう感動の瞬間の話題で盛り上がるのでしょう.

朝食後は,8時45分を待って,実際にカメラを装着して最初の画角調整に入ります.これから約1時間半,皆既日食の瞬間を待ちながら部分食の時間を利用して機器の微調整を行うとともに,不具合がないか,最終チェックを行います.

「まもなく,第1接触5分前です.」
例のメガホンでのアナウンスが観測地に響きます.いよいよ,このマドラスの地にもアメリカ横断皆既日食の月の影が近づいてきたようです.