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第2接触へのカウントダウン

第2接触5分前が近づいてきました.
「あと5分で第2接触です.」
メガフォンでのアナウンスが観測地に響きわたります.太陽もいよいよ細くなり,周りの人も撮影機器の操作,まわりを見渡したり,日食グラスを目に当てて細く線状になっていく太陽の観察をするなど,観測地全体があわただしくなってきました.私の場合,5分前までに部分食の撮影などの作業をすべて終了しておくスケジュールはやはり正解でした.このような状況ではとても冷静に操作ができるとは思えません.

念のためにピントをチェック.少しずれてきている.ここで再度,ピント調整を行うかどうか,非常に迷うところです.細くなった太陽でのピント調整は難しくもあり,逆に容易でもあります.仮止めしたマジックテープの固定具合を確認し,ピント調整可能と判断.わずかに微調整.どうも,一旦ずれたピントが元に戻ってきているようです.そこで,あと4~5分でもう少しずれるだろう,というのを見越してさらに超微調整.ここは練習の成果が発揮できて,1分半から2分程度で最終的なピント調整終了.これで完璧!

気温の低下もどんどん加速していきます.風も強くなってきました.地平線近くがだんだんと赤みをおびてきているのがわかります.第2接触,すなわち皆既の始まり3分前.いよいよ観測地に緊張が走ります.

第2接触3分前になると,日差しがやわらかくなり,地平線付近が日没時のような赤みを帯びてきます.
第2接触3分前:やわらかくなってきた日差し

皆既日食の撮影の際,絶対に忘れてはならないことは,皆既が始まる直前にNDフィルターを外すことです.私の場合は,皆既1分前の10時18分36秒からNDフィルターを外し始めます.NDフィルターが外れたら,そのまま皆既30秒前の10時19分06秒までは外した状態でカメラのレンズの前に手で保持しておきます.これはカメラが壊れないための対策と同時に,NDフィルターを外すという行為を忘れないために,わざと複雑な操作をするスケジュールを組んだためです.皆既30秒前になったらNDフィルターをカメラのレンズの前から完全に離して,手元のシャドーバンド観察システムの上に置くことになっています.

「まもなく,1分前です!」 例のメガホンコールが観測地に響きます.NDフィルターを外す1分前が近づいてきたのです.ここが,皆既日食撮影の最大のクライマックス.NDフィルターに手をかける準備をしながら,その瞬間を待ちます.ここで,チラッとシャドーバンド観察システムに視線を落とします.シャドーバンドが見えない!今回はシャドーバンドは起こっていないのでしょうか?あるいは,実際には起こっていても私のシステムでは見えづらいのでしょうか.しゃがみ込んで,確認したいのはヤマヤマですが,ここで余計なことをして皆既中の撮影に失敗することだけは避けたいものです.

いよいよ運命の瞬間の10時18分36秒.NDフィルターを外しはじめます.カメラが動かないように注意しながら.練習の時,何回,NDフィルターを外すときにカメラの三脚が動いてしまう失敗をしでかしたことか.今度だけは慎重に,慎重に,超慎重に.余計な力が加わらないように,ゆっくりと,着実に.私のシステムではNDフィルターがねじ込み式なので,NDフィルターが外れる最後のひとまわしまでの時間がとても長く感じます.まだ回る,まだ回る,でも慌てずに.本当にこの時間の長いこと長いこと.やっと外れた.確実に外れたのが確認できればそのまま,皆既の30秒前まで保持だった.もう30秒前は過ぎたのかなあ?

「まもなく,30秒前です!!」
メガホンコールを聞いて一安心.30秒前はまだだったようです.まだNDフィルターはカメラのレンズの前で保持しておかなくてはならない.30秒前が近づいたことを告げるメガホンコールと前後して,少しずつ周りの明るさのトーンが下がっていきます.
「こんな日差しは皆既日食の時しかないよね!」
と,たぶんベテランの方なのでしょう.だれかがつぶやきます.なるほど,微妙な薄暗さに包まれていながらも,しっかりとした日差しはあり,それでいて,やわらかい.この相矛盾するような表現でしか,言葉では表すことができません.やがて,明るさのトーンが下がっていくのが少しずつ加速していきます.

周りの色彩の変化も急速です.時計から目が離れてしまい,時刻がわからなくなってしまいました.勘で10時19分06秒頃だと思ったときにNDフィルター除去.ここからがまた長い.連写開始まで20秒待たないといけない.明るさのトーンが下がっていくのをキョロキョロと見ながら待つしかない.本当にこの時間は長い.今,太陽はどうなっているのだろうか.チラッと一瞬だけ見ると,さすがにまだ裸眼ではとてもまぶしい.目がくらむ.でも,明らかに点状の光源になっているのは明らか.

どこかから「シャドーバンド!」という叫び声が.すかさず足元のシャドーバンド観測システムをチラ目で確認しようとしたものの,わからない.シャドーバンドが見えない.ひょっとして,かすかに出ているのだろうか.でも,次第に暗くなっていくのに目の順応が追いつかない上に,目には先ほどチラッと見た太陽の残像が重なって,微妙な変化はわからない.「しまった!たった今,太陽を直視してしまったのがまずかった!」と思ったものの,後の祭.

次第に暗くなっていく中で,連写開始の10時19分26秒を確認しようとするが,時計の数字が見えない.目の順応が追いつかないのだ.カウントダウンのアナウンスが響くものの,聴き取れないまま,たぶん10秒前のアナウンスなのだろうと勝手に解釈し,1秒ごとの連写を開始.

数回連写したその時です.急速にすぅーと照明が落ちる感覚とともに,「おぉぉぅー!」という歓声.慌ててカメラのシャッターを押しっぱなしにして高速連写に切り替えです.いよいよ訪れる決定的な瞬間を待ちながら!