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誰でもできて失敗しない本格的な日食写真撮影条件の追求

失敗しない本格的な日食撮影を行うためには,いくつかの条件を満たす必要があります.たとえば,

  • 使い慣れた機器を使う
  • 強烈なイメージを持っておく
  • 撮影対象の絞り込み
  • 設定変更を少なくする
  • 余裕を持った作業手順
  • 事前の準備(計算,秒単位の撮影計画)
  • 部分食の時間の有効活用
  • 充分な予行練習

などでしょう.これらの各項目について,今回,私が検討し,実行したことを例に挙げながらお話ししましょう.

せっかく見た皆既日食の感動を,自分の記憶の中だけではなく写真としても残しておきたくなるのは誰でも同じでしょう.特に,私はサイトを運営している関係上,サイトに載せる写真を撮りたかったのはもちろん,誰でも失敗せずに撮れることに徹底的にこだわりました.そこで,皆既日食観察準備だけではなく,失敗しない皆既日食の写真撮影のための条件を本格的に追求し,その準備も行うことにしたのです.

今回,私が最も重視したのは,使い慣れている機器で撮影システムを組むことです.普段,使っている機器を使用することは失敗しない日食撮影の重要な要件だと思います.そこで私が持っている廉価なレンズ交換式一眼レフデジタルカメラNikon D40に300mm望遠レンズをセットしたもの(実際には 70-300mmのズーム)を三脚にセットした固定撮影としました.これなら,本格的な天体写真の基本としても充分です.実際,このシステムでどこまで撮れるのかわくわくします.

最初に行ったのは,皆既日食の時の(特に第2接触前後から第3接触前後の)撮影の強烈なイメージを得ることです.この作業で役立ったのは,2009年の皆既日食の時に読んだ『 皆既日食 2009(DVD付) (アスキームック) 』(アストロアーツ)という本です.この本はこのサイトの「皆既日食おすすめ本」でも推奨しています. この作業は詳細な手順をもれなく確認することにも役立ちますが,次に述べる撮影対象の絞り込みにも有効です.

次は撮影対象を絞り込むこと.失敗しない撮影のためには重要であるにもかかわらず,意外と難しい項目です.撮影方法を解説した本には,どの本でも,さまざまな撮影方法とともに,必ず強調される注意事項としては「あれもこれもと欲張らないこと」と述べられています.おそらく,これは著者の経験から出てきたメッセージなのでしょう.私もなかなか撮影対象を絞り込めませんでした.

撮影対象の絞り込みで幸いしたのは,2009年7月22日の皆既日食のときの上海での経験です.その時は雨で皆既日食は見られなかったものの,暗くなるのは体験できたことです.この体験から,わずか十数秒の間の劇的な変化が進行する中で,すべてを失敗なく撮影するのは神業で,初心者の私には無理だろう,ということはよく理解できました.今回は皆既日食のハイライトシーンが凝縮されている第2接触前後から第3接触前後の2分間の中から,撮影対象を可能な限り絞り込むことにしました.

第2接触が近づくと,さまざまな現象が同時進行で起こってきます.第2接触直前の部分食から撮影対象となる魅力的な瞬間が急増するのです.細い太陽,木漏れ日,風景の色彩の変化,シャドーバンド,ダイヤモンドリング,彩層,プロミネンス,コロナ,360度の夕焼けなどです.しかし,最適な撮影条件はどれも異なります.今回,私が使用・操作できるカメラは1台.その1台ですべてを対象とするのは当然のことながら無理です.そこで,可能な限り近い撮影条件で撮影できる対象に絞り込むことになります.

まず着目したのがコロナ.皆既日食となるとどうしてもコロナを撮ってみたくなります.コロナの場合,内部コロナと外部のコロナとでは明るさにして1000倍もの開きがありますので,「どんなシャッタースピードでもそれなりにどこかが写る」とも言われます.通常はシャッタースピードを変えて何枚か撮影し,後で画像処理を行って重ね合わせるという方法もあります.ということは,コロナの撮影開始時の条件は,他の撮影対象に合わせてしまうことにしました.こうすることにより,設定変更を少なくすることができる上,コロナ以外にも何かが撮影できそうです.

設定変更を少なくするために,私が今回,注目したのは,ND400 フィルターを2枚重ねで使用する方法です.この方法では,部分食中にフィルターをセットして部分食を撮影するためのシャッタースピードと,第2接触から第3接触までフィルターを外したときの彩層やプロミネンスを撮影するためのシャッタースピードがきわめて近いということです.そこで,部分食中は,ND400フィルターを2枚重ねにして,部分食中に撮影条件を微調整しながら皆既になるのを待ち,皆既の始めと終わりの彩層とプロミネンスを主な撮影対象にしました.そして,もし,余裕があれば皆既中にコロナを,シャッタースピードを変えて撮影することにしました.シャッタースピードは,彩層とプロミネンスを撮影したシャッタースピードから変化させていきます.

さらに,彩層やプロミネンスの撮影とコロナの撮影は同じ光学系で連続して行うことにしました.理想的な条件での撮影はできないものの,このように撮影条件を単純化することにより,皆既中はシャッタースピード以外のいっさいの調整や変更が不要となります.これなら,失敗のリスクは最小限に抑えられそうです.

さらに,余裕を持って撮影できる上に,目で見て皆既日食を楽しむ時間も確保したいものです.今回は皆既が2分間しか続きません.そこで,もう一工夫することにしました.唯一の問題は,コロナをシャッタースピードを変えて撮影するとなるとどうしても時間がかかってしまうことです.可能な限り所要時間を短縮するにはどうすればよいか?そこで,できるだけ高速シャッターを切ることを考えました.

私のカメラで最も高速なシャッタースピードは1/4000です.今回使用する交換レンズ(Zoom Nikkor 70-300mm を300mm で使用)では,開放でf/5.6ですから,1段階絞り込んでf/8として使用した場合, 1/4000のシャッタースピードで彩層やプロミネンスを写すためには,ISO感度を400に設定すればよいことがわかります.

ということで,実際の撮影スケジュールでは,ISO感度は400で,部分食中はND400を2枚重ねにしたフィルターを装着して微調整.第2接触の直前にフィルターを外して,1/4000で連写.皆既になったら1/4000から1/2000,1/1000,...と露出を変えて撮影していく,という撮影スケジュールとなりました.すべてが4で始まるので覚えやすいですね.このようなこともつまらないことではなく,重要だと考えます.

以上のように,今回は徹底的にシステムの単純化を図りました.しかも,普段使い慣れたカメラを使用することにより,失敗のリスクを限りなく小さくすることに徹することにしました.その他にも,余裕を持った作業手順,事前の計算と秒単位の撮影計画,部分食の時間の有効活用法,予行練習の工夫などがありますが,それらの詳細は別項目でお話する予定です.