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固定撮影でコロナの撮影に成功する秘訣

固定撮影でコロナの撮影を成功させようとした場合,画面上の位置が変化していくという問題が生じます.コロナの場合は何枚かを同じ条件で撮ろうとしても,その間に太陽が日周運動で位置を変えてしまうのです.画面の端のほうになればなるほど,収差の影響を受けやすくなるため,あとで重ね合わせなどの画像処理を行おうとしても収差の影響が大きく,うまくいかなくなります.この問題をうまく解決できる秘訣はないものでしょうか.

皆既中にコロナの撮影を可能な限り理想的な条件で行うためには,食の最大時に太陽が画面の中央に来るようにしなければなりません.しかも,できれば皆既中に位置の再調整などの作業は避けたいものです.そのために,食の最大の何分何秒前に太陽をどの位置に来るようにしておけばよいかを調べておくことにしたのです.

実際にやってみるとわかることですが,NDフィルターを装着した状態で太陽を画面ぎりぎりに合わせるのはきわめて難しい上,同時にピントが正しいかどうかのチェックも難しくなります.そこで,画面に刻んである目盛を目印にして,上下左右の端から何番目かを有効画面の一番端にする,というように自分で決めておきます.そして,自分で決めた有効画面の端から端までが角度の何度に相当するかを知っておきます.

まず,無限大にピントを合わせた状態で,角度のわかっているものを撮影します.太陽の直径も角度のものさしになりますので,NDフィルターを装着してテスト撮影をすればよいでしょう.私は,2012年5月21日の金環日食を撮影したときのデータを使いました.これで有効画面の端から端までの角度が決まります(上下,左右).

角度の計測が終わると,自分で決めた有効な画面の端から端までを100%として,「何時何分何秒に太陽が画面の中央に来るようにするためには,何時何分何秒にどちらの端から何パーセント,下から何パーセントの位置に太陽を持ってくる」という決定ができるようになります.

食の最大の時に太陽が画面の中央に来るような条件を求めるためにあと必要な情報として,当日の太陽の位置のみならず,移動方向(画面の中でのx軸方向とy軸方向)と移動速度(正確には速度ではなく角速度)を知る必要があります.実は,そのような計算を行うアプリケーションが公開されていて,

太陽の位置の計算

でわかります.日時と観測地の緯度,経度,時差を入力すると,10分毎の方向角と高度を計算して一覧表にしてくれます.この計算結果から,当日の太陽がある時刻にどれぐらいの速度でどの方向に動いていくかがわかります.これは大変重宝しました.

このアプリケーションから得られた値を元に計算して,ある時刻に太陽が画面の中央に来るためには,その何分何秒前に太陽が,自分で決めた有効画面の左端または下端からどの位置にあればよいかを求めておけばよいのです.太陽を画面の中央に来るようにする時刻は,食の最大の時刻だけではなく,部分食の時間中にもいくつか決めておきます.そして,部分食の時間を使って,太陽が画面の中央に来るはずの時刻に本当に画面中央に来るかどうかを繰り返し,撮影してチェックしていくこととしました.もし,誤差が大きい場合は部分食中に可能な範囲で補正すればよいのです.これを私は「画角調整」ということにしました.

このように画角調整のための撮影を部分食中に繰り返し行いながら,同時にピントのチェックも行います.ピントがずれてきたら部分食中にピントの調整を行っておきます.

以上のように,事前の計算と準備に加えて,部分食中に微調整を繰り返し行い,目的とする皆既食中の彩層,プロミネンス,そしてコロナの撮影に挑むことにしました.