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マドラスの輝き☆感動の瞬間よ永遠に!

「おぉぉぅー!」というどよめきに「ひゃー!」という歓声が重なるとともに照明が落ちる感覚が突然,停止.急激だった変化が止まったその瞬間,そこはもう別世界でした.黒い太陽!しかし,真っ黒ではなく,やや灰色がかっている.それがまたなんともいえない微妙な濃淡の模様を繰り出しているのです.太陽の周りに見えるのは黄色がかった金色のグラデーション.なんと幻想的な光景だろうか.ああ,これがコロナなんだなあ.まわりの青空になめらかに移行しているのがまたまた神秘的.ついに,2017年8月21日アメリカ横断皆既日食が始まったのでした.このオレゴン州マドラスの地で.

上海の時とは違って今回は意外と明るい(上海の時は雨で,皆既中の黒い太陽を見ることはできなかったが,真っ暗になった)です.空の青さも普通の青空の色を一旦,薄めて暗くしたような感じ.地平線に近づくにつれ,だんだんとオレンジ色から濃い紅色へと変化していく.太陽と反対の空は,やや濃いめの青から一旦,白みがかった黄色へと変化してから地平線へ向かって淡いオレンジ色に移行していくのでした.これが360度の夕焼けなんだな.

360度の夕焼けは止まるところを知らない.ゆったりと,濃淡がうねるように変化していく.ああ,優雅だなあ.

肝心の太陽のほうはどうなったのだろうか.相変わらず幻想的な金色のグラデーションの帽子をまとっている.

あっ,写真撮影は?すっかり忘れていた!
カメラのシャッターはどこ?
あったった!ここだ!手の感触ではたぶん間違いない.まずは1枚目.カシャ. 1/4000秒のシャッターの音.よかった,シャッターボタンで間違いない.とにかく撮影はスケジュール通りに進めなければならない.シャッターの次は info ボタン,そしてダイヤルを3目盛だけ左に回してまたシャッター.これを1/4000秒から1/4秒まで延々と繰り返していく.

幻想的な太陽が照らす薄暗闇の中で,手の感覚とシャッターの音だけを頼りに淡々と撮影していく.これで間違いないよな?!ちゃんと写っていてくれよ.

シャッタースピード 1/4秒を知らせる,ギー・ガッシャンというシャッター音が聞こえたらとりあえずは安堵.念のため,1/2秒でももう1枚.

太陽の右上と右側が妙にピンク色っぽい.それに対して,左下はやや白い.さきほどはどうだったのだろうか.あまりの美しさの連続に,少し前の記憶すらどんどんかき消されていく.わずかな変化なのか,とてつもない勢いで大きく変化しているのか,わからない.両方なんだろう.

あっ,大切なことを忘れていた!
カメラのシャッタースピードが1/2秒のままになっているのではないか.第3接触前後の連写に備えて,1/4000秒に戻しておかなくてはならない.
慌てて,シャッタースピードを変えるダイヤルを回す.慌てていて,どれほど回したかがわからなくなってしまった.ここはしばし太陽を見るのをあきらめて,カメラのディスプレイで確認をすることに.ところが,...
ディスプレイには何も写っていないではないか!
一瞬で背筋が凍て付く.やってしまった!NDフィルターの外し忘れ!!
いや,そんなことはない,確かに先ほど外したではないか.しかもあのながーい30秒間の保持もちゃんとしていたはず.この記憶だけは確かだ.じゃ,どうして?
なんと,info ボタンを押し忘れているではないか.即座に info ボタン,そしてダイヤル.
おっとっと,ちがう,ちがう,これは逆方向.今度は右に回さなければならないんだ.
1/4000秒まで回したら,それ以上回しても変化しないから,安心してどんどん,どんどん.回せるだけ回せ.

かの太陽のほうはどうかというと,ますます右上のピンク色の輝きが増していた.彩層だ.今度はある程度の厚みを持って,右上から周囲へとだんだんと細くなっている.太陽の右側のピンク色の点の輝きは相変わらずくっきりと浮かび上がっている.なんと,プロミネンスが肉眼で見える!?

やがて,右上のピンク色の輝きが白味を帯びてきた.いよいよ第3接触なのだろうか.太陽の右上を注視しながらカメラのシャッターを連写.連写速度は,最初は1秒毎に,つづいて,シャッターボタンを押しっぱなしにして,1/4秒間隔で連写.

そしてその瞬間.右上のピンク色の白味を帯びたところの一点,その点の中のさらに針先で突いたような一点から突然,すぅーと,純白の透明な強い輝きが現れる.その輝きは上下に長く,左右に短い光の十字架へと急速に姿を変える.今までの,つかの間の夢を一瞬で包み込んでしまう透明な輝き!このマドラスから,はるかかなたの宇宙にまで突き抜ける,この透明な輝き.これはこれは一体,なんだ?そうだ,これがダイヤモンドリングなのか.そう悟った瞬間,観測地全体に盛大な拍手が響き渡った.皆既日食が終わったのだ.

こうして,マドラスの地で繰り広げられた2分間にわたる天空のドラマは幕を閉じたのでした.

初めて味わった,つかの間の夢,
そして幻想的な光景の数々.
いつかまたどこかで!