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観察準備へ向けて

私が皆既日食の準備を本格的に始めたのは,日食の日まであと1年余りになってからでした.2009年7月22日はまだまだ遠い未来のことだという印象があったので,のんびり構えていたのです.

実は,2008年以前にも一度だけドキッとしたことがあります.それは,2007年のことでした.2007年のGW頃,もしかして思い違いをしていやしないか,と一瞬不安になったのでした.慌てて天文雑誌などを調べて,2009年だったのを改めて確認し,ほっとしたのを覚えています.それを機に,やはり本格的に準備を始めないといけない,と思いました.

2009年7月22日の皆既日食は,少年天文同好会時代からの夢であっただけあって,昔からかなりの期間をかけて調べてはいたのですが,いざ準備ということになると,その資料が見つからないのです.それもそのはず,私たちの子供の頃はコンピュータなんか個人で手に入るものではなかったから何かに記録するとなると紙切れやノートに書くしかなかったのです.コンピュータどころか,まだワープロ専用機もない時代ですからいた仕方ありません.

まずは,昔の調査記録を復元することから始めることにしました.でも,古くからのノートはどこにしまったかわからなくなってしまっているし,紙切れなんかは行方不明は当たり前です.一部は出てきましたが,そこにメモしてある情報のほとんどは現在のインターネット技術を使えば検索できるものがほとんどでした.それでも,影帯(シャドーバンド)の正体,雨の皆既日食の話,皆既日食を見ない皆既日食観測隊員(時計係の隊員)など,貴重なメモがたくさん見つかりました.

メモの内容の詳細の復元は,記憶の復元に頼ることにしました.貴重なメモがたくさん見つかったものの,その詳細についてはまだ不明のままです.そこで,実際にそのメモを書いたと思われる年代の時に行った場所へ行ってみることにしました.少年時代の記憶をよみがえらせるにはその時の思いでの場所を訪ねてみるのがいいと思います.これは予想以上に功を奏し,シャドーバンドなどはかなり細かいところまで思い出すことが出来ました.

1990年以降はコンピュータを持っていましたので,比較的簡単にまとめることが出来ました.ハードディスク全体を「皆既日食」や「コロナ」などのキーワードで検索すればよいからです.ただ,多くのファイルに類似情報や重複情報があることが悩みの種でした.そこで,1990年以前のメモも電子情報化し,とにかく一つのファイルにまとめることとしました.

ファイルをまとめる作業は面倒なため,ついつい,後回しになっていたら,いつの間にか皆既日食まであと1年余になっているではありませんか.あわてて,大胆にWord のアウトライン機能を使用してグループ分けして,自分の頭の中を整理することから始めました.

ファイルをまとめる作業がほぼ終わって気が付いたのですが,皆既日食の観察といえども,非常に多くのテーマがあるということでした.しかも,魅力的な現象の多くが皆既前後の数分間に集中しているのです.

私がどうしても思い出してしまうのが,かつて,観測テーマをあれもこれもと欲張って大失敗に終わった月食観測のことです.1976年の部分月食だったのですが,準備不足に加えてリハーサルもせず,観測テーマを絞りきらずにいたため,いざ本番となったときにうまくできなかったのです.そして,小さな失敗が次の失敗を呼び,惨憺たる結果に終わりました(でも,この時の失敗を教訓として,1978年の2回の皆既月食の観測は2回とも大成功でした).

いろいろと考えた末に出した結論は,こうでした.まず,皆既日食当日までに可能な限りの情報収集に努めること.そして,基本的に見て楽しむこと.この2点でした.

まず,今回は46年ぶりに皆既帯が日本国内を通過するということから,さまざまなメディアが情報を発信してくれるはずです.これほど恵まれた機会はまずないことから,これらの情報をにアンテナを張り,貪欲に吸収しようと考えました.

次に「百聞は一見に如かず」と言うように,私は皆既日食が全くの初めてですので,とにかく全身で感じて見たいと思うようになったのです.実際に皆既日食はどんな体験で,どのような心境になるのか,一度,あまりテーマを設定せずにありのまま自然体で体験したい.そう考えるようになりました.
(実際には,直前になって,写真撮影を中心とした計画に変更してしまいました.)

私にとって究極の目標だったはずの2009年7月22日の皆既日食が,皆既日食に親しむスタートとなってしまいました.

ということで,今回は写真も観測機器もなし.とにかく原始的な方法で楽しむことにしました.せっかく日本国内であるのだから日本国内で見ることにし,トカラ列島のツアー募集を待つことにしました.
(実際には,諸事情から旅行計画を立て始めてまもなく,観察地を上海に変更しました.)