◇短期滞在
アリゾナ大隕石孔
皆既日食の観察のためにアメリカに行ったのなら,一度は見てみたいものとして,アリゾナ大隕石孔があります.アリゾナ大隕石孔自体は皆既帯の外側にあり,アリゾナ大隕石孔周辺から皆既日食が見られるわけではありませんでした(部分日食は見られました).

アリゾナ大隕石孔については,観光案内の書物などには,アリゾナ大隕石孔国定記念物 Meteor Crater National Natural Landmark と記されています.グランドキャニオンへのアクセスの起点としても有名なフラッグスタッフから1時間程度のところです.まず,グランドキャニオンを見て,「化石の森国立公園へ行く途中,I-40 を東へ走り,Exit 233 で下りる」(『
地球の歩き方 B13 アメリカの国立公園 2015-2016
』)と立ち寄れるので,皆既日食ツアーでは,オレゴン州のマドラスなどで皆既日食の観測を行い,観光旅行としてグランドキャニオンとともに観光コースに入っていることが多かったようです.
さて,皆既日食遠征のときに,このアリゾナ大隕石孔を見るとどんなことを考えるでしょうか.いうまでもなく,大隕石孔は小惑星の衝突によって作られました.衝突した小惑星の直径は50mと推定されています.衝突した小惑星も,重力の作用を受けて,太陽の周りをまわっていたはずです.それが,たまたま地球の軌道と重なってしまい,地球と衝突するに至ったと考えられます.
このような天体衝突の衝撃はすさまじいもので,その威力をまざまざと見せ付けるのがこのアリゾナ大隕石孔です.わずか5万年前の衝突ということと,乾燥地帯ということで,風化作用をあまり受けずに残存していると考えられます.
6500万年前,地球上に君臨していた恐竜を絶滅させたのも小惑星の衝突であると考えられています.こちらのほうは,直径10km以上の小惑星で,メキシコ湾に面するユカタン半島付近に衝突したと考えられています.このような衝突は地球史上,何度も繰り返されたことでしょう.いつ,次の衝突が起こるのか,そのときの人類の運命は...考えるだけで恐ろしくなります.
今回,皆既日食を観察された方は,太陽,地球,月の絶妙な関係から見られる壮観に感動されたことでしょう.そして,皆既日食の主役である月,地球,太陽も重力の働きを受けて宇宙空間を運動しているということです.この皆既日食も,遠い将来には地球上からは見られなくなってしまうそうです.月と地球の距離が少しずつ大きくなっているからです.改めて,われわれが現在,皆既日食という壮観を楽しめる偶然に,感動せざるを得ません.
私たちも普段,重力を受けて暮らしています.古来より,重力という謎の解明に多くの時間と頭脳が使われてきました.そして今も重力の謎の解明に向けて,日々,研究が続けられています.本当の意味で重力の正体を突き止めるまでには,まだまだ多くの時間がかかることでしょう.
そういえば,アリゾナ大隕石孔の近くにあるグランドキャニオンができたのも重力の働きです.大隕石孔が宇宙からの営みであるのに対し,グランドキャニオンは,地球上での営みです.皆既日食という天空で繰り広げられるドラマと,大地に刻まれたアリゾナ大隕石孔を見て,みなさんはどんな思いを描かれるでしょうか?
