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2024年4月8日 北米縦断皆既日食

この日食は,南太平洋上で始まり,メキシコ西海岸から北米大陸に上陸し,アメリカ東南部を北東に進み,アメリカとカナダの国境付近を通った後,大西洋上で日没を迎えます.皆既帯の経路長はなんと,4,600km以上,多様な自然環境・社会環境の大地を駆け抜けることから,皆既中の太陽コロナはもちろん,皆既前後の情景にも注目です.

北米縦断皆既日食の魅力

今回の皆既日食はさまざまな魅力が盛りだくさんです.当然のことながら,そのすべてを一人で堪能することはできませんので,何を見たいのか,事前にテーマを絞った上で観測・観察に挑戦したいものです.以下,簡単にまとめてみました.まだまだあると思いますが,まずは全体像を把握するという意味で...

皆既継続時間4分

今回の皆既日食の特徴の一つとして,皆既中心線近くの陸上の観測地で皆既継続時間が4分前後.これは 2010年7月11日のイースター島以来です.皆既継続時間が長いということは,観測・観察・撮影にそれだけ余裕を持って取り組めるということでもあります.皆既時間中のダイナミックな変化を楽しむこともできることでしょう.

極大期のコロナ

太陽活動の周期は約11年,2025年頃に極大を迎えると考えられています.太陽の外層大気ともいうべきコロナは,極大期が近づくにつれ,ストリーマーが全方位に拡がるようになっていきます.その形状は毎回違うし,極大期直前ということもあって,多様な変化も期待できます.今回はどんな光景を見せてくれるのでしょうか.

太陽系の惑星たちの大集合に加わる突然の来客

今回は,皆既中に太陽系の惑星7つ(足元の地球も含めれば8つすべて)が見られるということです.今回はそれに加えて,ちょっと気になるのが 12P/ポン・ブルックス彗星 です.2024年4月20日頃の70年ぶりの近日点通過直前のため,4等級程度の肉眼彗星になりそうです.しかも,たびたびバーストを起こして話題になっている彗星ですから,運がよければコロナと同時観察が可能かもしれません.

多様な自然環境と社会環境

皆既日食が起こるのが 4月8日 という春に,熱帯のサバナ気候から亜寒帯の気候の地域まで皆既帯が駆け抜ける今回の北米縦断皆既日食.普段でも多様な景観にがさらに,皆既中や皆既前後の色合いに染まったらどんな光景が見られるのでしょうか.

北米縦断皆既日食が見られる各地の様相

皆既帯が通る総延長4,600kmのうち,観測候補地となる陸地を中心に西からみていきましょう.

太平洋上メキシコ西海岸に上陸

皆既帯が最初に北米大陸に上陸するのは,メキシコの商工業都市・観光都市のマサトラン付近です.都市の建物や海岸を斜めから照らし出す太陽の光の色合いが刻々と変わっていくのは見物です.太陽活動の極大期のコロナと合成したらおもしろい作品になるかもしれません.

北米大陸に上陸する前にもいくつかの島を通りすぎます.アクセスは難しいかもしれませんが,海岸線の方向により海の色合いは異なった様相を示すものとおもわれますので,注目です.

メキシコ西部山岳地帯

メキシコ本土に上陸した皆既帯は,西海岸を通った後は,標高2,500mにもなる西シエラ・マドレ山脈を抜けていきます.その間,次々と異なる気候区分の地帯を通り,少し場所が異なるだけで全く違った情景となります.各地で山岳地帯の山々の稜線と谷が日食の進行とともにどのように変化していくか,今回の日食の大きな魅力の一つです.問題は移動手段と天候の安定性,観察や観測をしても問題ない場所の確保ですが,これらが解決できるのなら,ツアーでは行けないところでの貴重な日食の情景を堪能することが可能です.

メキシコ高原から湾岸平野へ

山岳地帯を抜けた後は,日食は乾燥したメキシコ高原を北東に進みます.高原の西の入り口のドゥランゴ,トレオンなどの都市を駆け抜け,東シエラ・マドレ山脈を越えてメキシコ湾岸平野へと進みます.メキシコ高原は晴天率が高く,ツアーでも注目されています.都市部とその郊外での景観の違いにも注目です.

アメリカ南部高原地帯

リオ・グランデ川を渡ってアメリカのテキサス州へ入った皆既帯で注目されるのはテキサス州北西部のエドワーズ高原.空港があるダラス,オースティン,サン・アントニオから近いこともあって,これらの都市から皆既中心線上のフレデリックスバーグなどに関心が集まるのだと考えられます.

アメリカの都市と郊外を駆け抜けていく

米国では,皆既帯は2017年8月21日のアメリカ横断皆既日食と同様,多くの都市や公園を駆け抜けていきます.主な都市だけでも,ダラス,カーボンデール,インディアナポリス,クリーブランド,バッファローなどです.各都市の特徴と皆既中の光景,都市の郊外の町並みや自然環境の普段とは異なる情景もおもしろいのではないでしょうか.特に,ナイアガラの滝での日食は貴重なワンシーンとなることでしょう.

カナダから北大西洋へ

その後,皆既帯はアメリカとカナダの国境付近を進んだ後,「赤毛のアン」で有名なプリンスエドワード島,ニュウファンドランド島を通って北大西洋に抜けます.観光地での日食となると,ひときわ魅力的な光景も期待できますが,天候次第ということでしょう.

今回の遠征で注意すべきこと

今回の日食遠征で注意すべきことは,メキシコ入国時の観測機材の持ち込み制限と,アメリカ南東部での天候の急変(特にトルネード)です.

メキシコでは機材の持ち込みが厳しく,しかもどこまで免税範囲に入るのかがあいまいだということです.おそらく,その時々のお国の事情により(時には審査に当たった空港職員により)規制範囲を決めるのかもしれないのですが,私たちにとってはどのように考えて準備すればいいのか悩みます.そのための貴重な情報が 月刊星ナビ 2024年2月号 に掲載されています.もちろん,これが絶対的だと考えてはいけませんし,最終的には旅行者自身の判断と自己責任と運だということを理解しているという前提で,非常に参考になる心強い情報だと私は考えます.

米国での観測で注意すべきことは天候の急変,特にトルネード(竜巻)です.非常時に近くに緊急避難できる建物などの確保が重要です.個人旅行の方は特に注意してください.